「良い商品、良いサービス」であれば、「売れる」と思いますか?
質問の答えは”NO”です。
今の時代、世の中に商品が溢れています。
そしてそのほとんどが同じようなクオリティをしており、比較することは難しくなってきています。
他の商品より抜群に「良い」点がなければ、消費者からしたら全て同じようなものでしょう。
「売れている商品」は全て「良い商品」かもしれませんが、「良い商品」だからといって「売れる」わけではありません。
では、その中で商品やサービスを売るためにはどうすれば良いのでしょうか。
商品を売るには、お客さんがなぜその商品やサービスを選ぶのか、どんな問題を抱えているのかを知ることが大切です。
これをマーケティングでは「インサイト」と呼びます。
インサイトからは、自社サービスを拡販するための新たな売り方や打ち出し方を見出すことが可能です。
本記事では、「そもそもインサイトとは」という基本的な内容や、企業によるインサイトの活用事例など、インサイトについて徹底解説します。
目次
「インサイト」とは?
インサイトとは「物事の本質を見抜くこと」を指す言葉であり、主にマーケティング業界で使用される専門用語です。
一般的には、潜在ニーズと同義語として考えられることもありますが、潜在ニーズと顧客インサイトには明確な違いが存在します。
マーケティングにおいては、顧客インサイトは顧客自身が気づいていない心理状態や本質的なニーズを指します。
「ニーズ」と「インサイト」の違い
ニーズとインサイトは、似たような意味を持つ単語ですが、それぞれ異なる意味を持ちます。
消費者インサイトを発見するのにやってはいけないこと
消費者インサイトを発見する上でやってはいけないことがあります。
それは、消費者に買わない理由を直接聞くことです。
なぜなら、お客様は「自分が本当に欲しいもの」を理解していない場合が多いからです。
そのため、なぜ買わないのかを消費者に尋ねても明確な理由がこない場合が多くあります。
【失敗例1】マクドナルドのインサイト発見の失敗例
かつて、日本マクドナルドが新メニューに関するアンケート調査を行なったところ、「低カロリー」や「ヘルシー」といった健康志向の希望が多数挙がったことがあります。
しかし蓋を開けてみると、ヘルシーメニューを希望していた若い女性客たちは、ビッグマックやクォーターパウンダーといった、お世辞にもヘルシーとは言えない商品を平気で注文したと言います。
さらに、ハンバーガーに使う肉の量を大幅に増やした「メガマック」を発売したところ、これまた大ヒットを記録したのだそうで、結局、顧客が求めていた商品は本人の希望とは真逆だったということがありました。
消費者の声を聞いて作った商品は受け入れられず、その声とは真逆とも言える特徴を持った商品が大ヒットする。消費者の声をそのまま受け入れてもヒットは作れない、ということを物語るエピソードです。
【失敗例2】日常生活のインサイト発見の失敗例
ある日、彼女のBちゃんから、「友達のCちゃんは彼氏からブランドバッグもらったんだって!いいなー」と自慢されたと言われました。
そのため、Aくんは、「それなら!」と思い、頑張って貯めた貯金でブランドバッグを買い、Bちゃんにあげました。
しかし、Bちゃんの機嫌がよかったのは束の間、しばらくすると、また機嫌が悪くなってしまいました。
男性の皆さんはこういう話ってわりとよくあると思いますが、なぜ?だと思いますか?
実は、Bちゃんが本当に欲しかったのは、ブランドバックではなくAくんから「大事にされている」という感情でした。
なので、Aくんは、Bちゃんが学生時代続けていたテニスをBちゃんから習い、一緒にテニスを楽しむ時間を作ったところ、楽しい毎日を送り続けることができました。
ここからわかるのも、「ブランドバッグもらった」という話から、「ブランドバッグ」が欲しいと考えて行動した結果、Bちゃんの気持ちを考えていなくて、失敗してしまったという話です。
インサイトの視点で考える時は、「ブランドバッグもらった」という話から「私のことも大事にして欲しい」という感情を読み取ることが大切です。
消費者のインサイトを見つける簡単な方法
それでは、消費者インサイトを見つける方法を、簡単なフレームワークで紹介していきます。
1.構成する4つの要素から感情を考える
インサイトは客観的な事実に基づく感情です。そのため、消費者インサイトは4つの要素で構成されています。
そのため、消費者インサイトを見つける際はまずは、この4つの要素がどこから来るのか順番に考えてみましょう。
マクドナルドの例で言うと、「ハンバーガーを食べたい」と思う感情はどこから来るのか?という話です。
また、消費者インサイトは3つに分類することができます。
インサイトを考える際は、この3つのどの心理から発生されているのかを考えてみましょう。
3.アイデアを考える
次に①と②で考えた感情や心理から、具体的なアイデアを考えてみましょう。
以下は、キットカットの消費者インサイトを考えた時の例です。
お菓子のキットカットはなぜ売れているのかインサイトを調査した結果、「キットカットをバキっと折る時にストレスが軽くなる」と言うインサイトが見えてきたそうです。
発見したインサイトをもとに卒業シーズンに合わせた戦略を実施し、売上が急激に伸びたことがありました。
【事例】P&Gファブリーズのインサイト調査
消臭でお馴染みのファブリーズも、消費者のインサイトをもとにマーケティングを行い成功した商品の一つです。
ファブリーズの誕生
ファブリーズの歴史は意外にも長くて、1990年代半ばに誕生しています。
アメリカのP&G社は悪臭を根絶する安価で透明な液体を開発し、販売に向けて元ウォール・ストリートの数学者や生活習慣行動の専門家を集めてマーケティングチームを結成しました。
この画期的な製品の成功を確信した彼らは、いくつかの都市でテスト販売とテストCMを実施して消費者の反応を調査してみました。
当初のCM訴求と反響
最初のテレビCMでは、タバコのにおいなど服に付着した悪臭を消すもので、その次のテレビCMでは、ソファやカーペットなどの家具からペットのにおいを消すものでした。
CMの通りこの商品のコンセプトは『日常の嫌なにおいを消すこと』でした。
「日常の嫌なにおいを消す」というわかりやすいメリットでマーケティングチームのメンバーはファブリーズの大ヒットを確信していたようです。
しかし、1週間、1ヶ月、2ヶ月が過ぎてもファブリーズは売れず、むしろ売上はどんどん縮小していきました。
予想外の展開にパニックに陥ったチームは、慌てて消費者を訪問して詳細な調査を実施することになります。
予想していなかった事実の発覚
消費者への訪問調査結果の結果、猫を飼っている家庭の飼い主はもはや猫のにおいが気にならず、家で喫煙する家庭もタバコのにおいが常習化して鈍感になっていることがわかりました。
ファブリーズがコンセプトにしていた「日常の嫌なにおい」は、当事者にとっては気にならないものだったのです。
再調査で見えてきた消費者心理
販売戦略の見直しを迫られたファブリーズのチームは、ハーバード大学の教授を迎え入れ、ファブリーズを日常的に使用する人々の生活を徹底的に調査しました。
その結果あるファミリー層の母親が部屋の掃除を終えた後に、ファブリーズを最後の締めくくりとして使用していることが判明しました。
その女性に深く話を聞いてみると、「掃除を終えた後、ご褒美や祝福のような気持ちでスプレーを吹きかける」と語りました。
この女性は、たった2週間でファブリーズ1本を使い切るほどのヘビーユーザーでした。
インサイトを落とし込んだ広告へ
この女性のインサイトをもとに作成された新しいファブリーズのプリント広告は、窓を開けて新鮮な風が吹き込むイメージで表現され、テレビCMも掃除が終わった清潔な部屋や、整えられたベッドにスプレーして香りを楽しむ様子を映し出すものに変更されました。
こうしてファブリーズは「日常の嫌なにおいを消す」商品から、「掃除の終わりのご褒美」としてまた「日常に新鮮な香りを加える」商品へと変わっていったのです。
消費者の心理を掴み売上爆増
生まれ変わったファブリーズは消費者の心理を掴み、わずか2ヶ月で売上を倍増させ、見事なV字回復を果たしました。
1年後には、なんと331億円もの売上を記録しました。
その後も、フレッシュな香りを訴求することに加え、当初の目標であった「日常の嫌なにおい」を取り除きたい層にも広く愛用されるようになりました。この成功を受けて、ファブリーズはさまざまなスピンオフ商品を生み出し、年間1000億円以上の売上を誇るP&Gの主要事業の一つへと成長しています。
これがP&Gの取り組んだインサイトマーケティングの成功事例になります。
まとめ
今回は「インサイト」(消費者心理)についてのお話をさせていただきました。
商品を販売する中で、消費者心理や行動心理学を学び理解することはとても重要です。
表面上のニーズだけではなく、顧客の隠れた欲求を見抜く思考ができるようになりましょう。
販売がうまくいっていない場合は、
「この商品はどんなインサイトを解決するのか」
「それを誰に、どのように伝えているのか」
ここを振り返ることをお勧めします。
今後も、最新のマーケティング情報を更新していきます!