「生成AIを業務に取り入れたいけれど、どんなリスクがあるのか不安」と感じていませんか。

ChatGPTをはじめとする生成AIは、文章の作成やデータ分析など、さまざまな業務を効率化できる強力なツールです。 国内企業の**25.8%**がすでに生成AIを活用しており、前年から15.9ポイントも増加したという調査結果もあります(矢野経済研究所「国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査」より)。

しかし、急速な普及の裏側では、情報漏洩や著作権侵害、偽情報の拡散といった深刻な問題点が次々と明らかになっています。 実際にサムスン電子では社内の機密コードが流出し、香港ではディープフェイクを使った約38億円もの詐欺被害が発生しました。

こうしたトラブルを他人事と考えるのは危険です。 生成AIの問題点を正しく理解し、適切な対策を講じることが、これからの企業経営には欠かせません。

この記事では、生成AIが抱える7つの問題点と実際に起きたトラブル事例、そして企業が実践すべき6つのリスク対策をわかりやすく解説します。 リスクを正しく把握したうえで、生成AIを安全かつ効果的に活用するためのヒントをお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

なお、生成AIを含むデジタルマーケティング施策の導入でお悩みの方は、名古屋のWebコンサルティング会社である株式会社エッコにお気軽にご相談ください。

生成AIが抱える7つの主要な問題点

生成AIは業務効率化に大きく貢献する一方で、企業にとって見過ごせないリスクを複数はらんでいます。 ここでは、企業が特に注意すべき7つの問題点を取り上げます。 それぞれのリスクの内容と、なぜ危険なのかを具体的に見ていきましょう。

  • ハルシネーション(誤情報の生成)
  • 機密情報・個人情報の漏洩リスク
  • 著作権・知的財産権の侵害
  • ディープフェイクと偽情報の拡散
  • 学習データに起因するバイアスと差別
  • 人間の思考力・創造力の低下
  • 高い計算コストと環境負荷

以下で、それぞれの問題点をくわしく解説します。

ハルシネーション(誤情報の生成)

生成AIの問題点として最も広く知られているのが、ハルシネーションと呼ばれる現象です。 ハルシネーションとは、AIが事実に基づかない情報をあたかも正しいかのように生成してしまうことを指します。

生成AIは膨大なデータをもとに「確率的にもっともらしい文章」を組み立てる仕組みで動いています。 そのため、学習データに含まれない情報や曖昧な質問に対しても、自信ありげに回答を返してしまうのです。 しかも生成される文章は自然で説得力があるため、読み手がうそだと気づきにくい点がやっかいです。

たとえば、実在しない論文の引用を生成したり、存在しない法律の条文を提示したりするケースが報告されています。 企業がこうした誤情報を検証せずにそのまま公開すれば、顧客からの信頼を一気に失いかねません。

ハルシネーションの具体例 想定されるリスク
架空の統計データや調査結果を生成 誤った意思決定の原因になる
実在しない人物や企業名を回答に含める 取引先や顧客とのトラブルに発展する
過去の情報を現在の事実として提示する 古い情報にもとづく判断ミスが生じる
存在しないURLや文献を参照元として出力する 情報ソースの信頼性が損なわれる

技術的な改善は進んでいるものの、ハルシネーションを完全に防ぐ手段は現時点では存在しません。 生成AIを業務で活用する場合は、出力された内容を必ず人間の目でチェックする体制が不可欠です。

機密情報・個人情報の漏洩リスク

生成AIに入力したデータが外部に流出するリスクは、企業にとって非常に深刻な問題点です。

多くの生成AIサービスでは、ユーザーが入力した情報がサービス提供元のサーバーに送信されます。 一部のサービスでは、入力されたデータがAIモデルの学習に利用される設定になっていることもあります。 つまり、社内の機密情報や顧客の個人情報をうっかり入力してしまうと、意図せずデータが外部に渡ってしまうおそれがあるのです。

とくに注意が必要なのは、以下のようなケースです。

  • 社内のソースコードや設計図をAIに貼り付けてレビューを依頼する
  • 顧客リストや個人情報を含むデータをAIに分析させる
  • 社内会議の議事録をそのままAIに要約させる
  • 未公開の製品情報や財務データをプロンプトに含める

こうした情報が学習データに取り込まれた場合、まったく別のユーザーへの回答に反映される可能性があります。 企業としては、生成AIに入力してよい情報の範囲を明確に定め、社内ルールとして徹底する必要があります。

さらに、従業員が会社の許可なく個人アカウントで生成AIを業務利用する「シャドーAI」の問題も深刻化しています。 こうした非管理下の利用を放置すると、情報漏洩のリスクがさらに高まるため、組織的な管理体制の構築が急務です。

著作権・知的財産権の侵害

生成AIの出力物が他者の著作物に似てしまう、いわゆる著作権侵害のリスクも大きな問題点です。

生成AIは学習の過程で、インターネット上に公開されている書籍、記事、画像、音楽などの膨大なデータを取り込んでいます。 その結果、AIが生成したコンテンツが既存の著作物と表現上似通ってしまう場合があります。 類似性と依拠性が認められれば、著作権侵害として法的責任を問われるおそれがあるのです。

とくに画像生成AIにおいては、特定のイラストレーターや写真家のスタイルを学習し、その作風に酷似した画像が出力されるケースが問題視されています。

著作権侵害が起こりうる場面 具体的なリスク内容
AIが生成した文章が既存の記事と酷似 著作権侵害として損害賠償を請求される
画像生成AIが特定の作家のスタイルを再現 クリエイターからの抗議や訴訟に発展する
AIが生成したコードが既存のライセンス付きコードと一致 ライセンス違反として法的責任が生じる
楽曲生成AIが既存の楽曲に類似したメロディーを出力 音楽著作権の侵害として問題になる

現行の著作権法第30条の4では、情報解析を目的とするAIの学習利用は原則として許可されています。 しかし、この規定の適用範囲には議論の余地があり、生成物の利用段階では通常の著作権法が適用されます。

法的に問題がないケースでも、倫理的な観点から企業の評判が傷つくリスクがある点も見落とせません。 AIが生成したコンテンツを公開する前に、既存の著作物との類似性を必ずチェックすることが重要です。

ディープフェイクと偽情報の拡散

生成AIの技術を悪用したディープフェイクは、社会全体に大きな脅威をもたらしています。

ディープフェイクとは、AIを使って実在の人物の顔や声を精巧に再現した偽の画像、動画、音声のことです。 かつては専門的な知識と高性能な機材が必要でしたが、生成AIの進化により誰でも手軽にリアルなフェイクコンテンツを作れる時代になりました。

ディープフェイクが企業にもたらすリスクは多岐にわたります。

  • 経営幹部になりすましたビデオ通話で不正送金を指示される
  • 企業のCEOが不適切な発言をしているかのような偽動画が拡散される
  • 取引先を装った偽の音声メッセージで契約情報を詐取される
  • 自社製品に関するデマ画像がSNSで急速に広まる

Resemble AIの調査によると、2025年第1四半期だけでディープフェイク詐欺の被害額は世界で2億ドル(約290億円)を超えたと報告されています。 北米では前年比で1,700%以上もの増加が確認されており、被害の規模は急速に拡大しています。

日本国内でも、生成AIで作られた岸田前総理大臣の偽動画がSNS上で拡散された事例があります。 企業としては、ディープフェイクの存在を社内に周知し、不審な連絡を受けた際の確認手順を整備しておくことが求められます。

学習データに起因するバイアスと差別

生成AIは学習に使ったデータの偏りをそのまま引き継ぐため、バイアス(偏見)や差別的な表現を出力してしまうことがあります。

AIが学習するデータはインターネット上の膨大な情報ですが、そのなかには人種、性別、年齢、国籍などに関する偏見や固定観念が含まれています。 AIはデータの傾向を統計的に学習するため、社会に存在する不公平さをそのまま再現・増幅してしまうのです。

バイアスの種類 具体例
ジェンダーバイアス 「看護師」と入力すると女性の画像ばかり生成される
人種バイアス 特定の人種に対して否定的な表現が含まれる
文化的バイアス 欧米中心の価値観にもとづいた回答が偏る
職業バイアス 特定の職業に対するステレオタイプが反映される

企業がバイアスを含むAIの出力をそのまま意思決定や制度設計に活用した場合、社会的信用の失墜や法的トラブルに発展するリスクがあります。

とくに採用、人事評価、融資審査といった人の人生に大きく影響する場面では、AIの出力に偏りがないか慎重に確認しなければなりません。 生成AIの出力は常に中立・公正とはかぎらないことを前提に、内容をチェックする体制を整えることが大切です。

人間の思考力・創造力の低下

生成AIに頼りすぎることで、人間自身の考える力や創造する力が衰えてしまうという懸念も見逃せない問題点です。

生成AIは質問を入力するだけで、もっともらしい回答を瞬時に返してくれます。 この便利さに慣れてしまうと、自分で情報を調べたり、論理的に思考を組み立てたりする機会が減っていきます。 結果として、自ら考え、判断する能力が徐々に低下するおそれがあるのです。

  • リサーチをせずにAIの回答をそのまま採用してしまう
  • 文章作成をすべてAIに任せ、自分で書く練習をしなくなる
  • アイデア出しをAIに依存し、独自の発想が生まれにくくなる
  • AIの提案を疑わずに受け入れ、批判的思考が弱まる

企業においては、社員がAIの出力を鵜呑みにすることで、組織としての独自性や競争力が失われるリスクがあります。

生成AIはあくまでも「思考を補助するツール」として位置づけ、最終的な判断は人間がおこなうという原則を徹底することが重要です。 AIとのかかわり方について、社内で明確な方針を共有しておくことをおすすめします。

高い計算コストと環境負荷

生成AIの開発と運用には、膨大な計算リソースとエネルギーが必要です。 この点は見落とされがちですが、コスト面でも環境面でも無視できない問題点です。

大規模な言語モデル(LLM)のトレーニングには、数千台のGPUを数か月にわたって稼働させる必要があります。 これにともなう電力消費量は非常に大きく、データセンターの環境負荷が世界的に問題視されています。

国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、データセンターの電力消費量は2026年までに2022年比で倍増する見込みです。 生成AIの普及がこの増加をさらに加速させていることは明らかです。

コスト・環境負荷の側面 具体的な影響
モデルの学習コスト 1回のトレーニングに数億円規模の費用がかかる
推論(利用時)のコスト 大量のリクエスト処理にGPUサーバーが常時稼働する
電力消費 データセンターの消費電力が急増している
冷却設備 サーバー冷却のために大量の水やエネルギーを消費する
CO2排出 電力消費の増加にともない温室効果ガスの排出も増える

企業が生成AIを導入する際は、利用コストだけでなく環境への影響も考慮に入れる必要があります。 AIの利用量を適切に管理し、必要な場面に絞って活用することが、コスト削減と環境配慮の両面から求められています。

実際に発生した生成AIトラブル事例

生成AIの問題点は理論上のリスクにとどまらず、すでに世界各地で具体的なトラブルとして表面化しています。 ここでは、企業が特に参考にすべき4つの実例を紹介します。

事例 発生時期 概要
サムスン社員による社内コード流出 2023年3月 社員がChatGPTに機密コードを入力し流出
ディープフェイクを悪用した大規模詐欺 2024年2月 偽のビデオ会議で約38億円をだまし取られる
ニューヨーク・タイムズによるOpenAI訴訟 2023年12月 記事の無断利用をめぐり訴訟を提起
ChatGPTアカウントの闇市場売買 2023年6月 10万件超のアカウント情報がダークウェブに流出

それぞれの事例をくわしく見ていきましょう。

サムスン社員による社内コード流出事件

2023年3月、韓国のサムスン電子で社内機密情報がChatGPTを通じて外部に流出する事故が発生しました。 この事件は、生成AIの業務利用がもたらす情報漏洩リスクを世界に知らしめた象徴的な事例です。

サムスンの半導体事業部門(DS部門)では、2023年3月11日にChatGPTの社内利用を解禁しました。 ところが、解禁からわずか20日間で少なくとも3件の機密情報漏洩が確認されたのです。

具体的な流出内容は以下のとおりです。

  • 半導体設備の測定データベースに関するソースコードをバグ修正の目的で入力
  • 歩留まりや不良設備を把握するプログラムのコードを最適化のために入力
  • 社内会議の録音データをテキスト化したうえで、議事録作成の目的で入力

いずれも社員が業務効率化のために善意でおこなった行為でしたが、入力されたデータはOpenAIのサーバーに送信・保存されてしまいました。

この事態を受けてサムスンは緊急措置として、ChatGPTへの1質問あたりのアップロード容量を1,024バイトに制限しました。 その後、最終的には社内での生成AIツールの利用を全面的に禁止する方針を打ち出しています。

この事件は、生成AIの仕組みを十分に理解しないまま業務利用を始めることの危険性を明確に示しています。 社内ルールの整備と社員教育の重要性をあらためて認識させられる事例といえるでしょう。

ディープフェイクを悪用した大規模詐欺の事例

2024年2月、香港に拠点を置く多国籍企業で、ディープフェイクを使った約2,500万ドル(約38億円)もの詐欺被害が発生しました。 この事件は、生成AI技術が犯罪に悪用された最大規模の事例のひとつとして大きな注目を集めました。

事件の手口は以下のとおりです。

  • 詐欺グループが企業の最高財務責任者(CFO)の顔と声をディープフェイクで再現した
  • 偽のCFOが参加するビデオ会議を設定し、財務担当の従業員を招集した
  • 会議には複数のディープフェイクで作られた「同僚」も参加し、集団で偽装した
  • 従業員はビデオ通話の相手が本物だと信じ込み、指示どおりに送金を実行した

注目すべきは、リアルタイムのビデオ通話ですら本物と見分けがつかなかったという点です。 複数の参加者がすべてディープフェイクだったにもかかわらず、被害者は最後まで気づくことができませんでした。

被害を受けた企業は、英国の大手エンジニアリング会社Arupであることが後に明らかになっています。 同社は声明で、会社の財政安定性や内部システムには影響がなかったとしつつも、事件の深刻さを認めています。

この事例は、ディープフェイク技術が企業のセキュリティを根本からゆるがす脅威であることを示しています。 高額な送金や重要な意思決定については、ビデオ通話以外の方法でも本人確認をおこなうことが不可欠です。

ニューヨーク・タイムズによるOpenAI訴訟

2023年12月、米国の大手新聞社ニューヨーク・タイムズ(NYT)がOpenAIとMicrosoftに対して著作権侵害を理由とする訴訟を提起しました。 この訴訟は、生成AIと著作権の関係をめぐる最も重要な法的争いのひとつです。

NYTの主張の要点は以下のとおりです。

  • ChatGPTがNYTの記事を無断で学習データとして利用している
  • AIが生成する回答にNYTの記事内容がほぼそのまま含まれるケースがある
  • 読者がAIから記事の内容を得られるため、NYTの購読料収入や広告収入の機会が奪われている
  • 数十億ドル規模の損害賠償を請求している
NYT訴訟の論点 内容
学習段階の問題 著作権のある記事を無許可で学習に使用した
出力段階の問題 記事の内容がほぼ再現される形で出力される
経済的損害 購読料や広告収入の減少を招いている
求める対応 損害賠償に加え、NYTのデータを用いた学習の停止

この訴訟はNYT単独のものではなく、同年8月には10人以上の作家がOpenAIに対して同様の訴訟を起こしています。 生成AIの学習に著作物を無断使用することの是非は、世界中で議論が続いている重要なテーマです。

企業としても、生成AIが出力したコンテンツに他者の著作物が含まれていないかを確認する姿勢が求められます。 著作権をめぐる法的リスクは、生成AIを活用するすべての企業にとって無関係ではありません。

ChatGPTアカウントの闇市場での売買

2023年6月、シンガポールのセキュリティ企業Group-IBが衝撃的な調査結果を公表しました。 10万件以上のChatGPTアカウント情報がダークウェブ上で不正に売買されていることが判明したのです。

この漏洩は、ユーザーのPCに感染したマルウェア「インフォスティーラー」によって引き起こされました。 インフォスティーラーは、Webブラウザに保存されたIDやパスワードなどの情報を盗み出す悪意あるプログラムです。

  • 2022年6月から2023年5月の1年間で、101,134件のアカウント情報が盗まれた
  • アジア太平洋地域からの漏洩が最多で、全体の約40%を占めた
  • 日本からの漏洩は少なくとも661件が確認された
  • 盗まれたアカウント情報はダークウェブの闇市場で取引されていた

アカウントが乗っ取られた場合、過去の会話履歴がすべて第三者に閲覧されることになります。 業務でChatGPTを使っていた場合、会話のなかに含まれる機密情報や個人情報が芋づる式に流出するリスクがあります。

この事例は、生成AIサービスのアカウント管理がいかに重要かを物語っています。 強力なパスワードの設定、二段階認証の導入、アカウントの個人単位での管理など、基本的なセキュリティ対策の徹底が欠かせません。

総務省・経済産業省が示すAIリスクの分類

生成AIのリスクについては、日本政府も積極的に対応を進めています。 2024年4月、総務省と経済産業省は共同で「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を策定しました。

このガイドラインでは、AIのリスクを「従来から存在するAI固有のリスク」と「生成AIによって新たに顕在化したリスク」に分類しています。 企業が生成AIの問題点を体系的に理解するうえで、非常に参考になるフレームワークです。

リスクの分類 具体例
従来から存在するAI固有のリスク バイアス、フィルターバブル、データ汚染、環境負荷
生成AIで新たに顕在化したリスク ハルシネーション、情報漏洩、ディープフェイク

以下で、それぞれの分類とガイドラインの要点を解説します。

従来から存在するAI固有のリスク

AI事業者ガイドラインでは、生成AI以前から指摘されてきたAI技術そのものに内在するリスクを整理しています。 これらは生成AIに特有のものではありませんが、生成AIの普及によってさらに影響が拡大する可能性があるものです。

ガイドラインで例示されている従来のAIリスクは、おもに以下のとおりです。

  • バイアスのある結果や差別的な結果が出力されてしまうリスク
  • フィルターバブルやエコーチェンバー現象が生じるリスク
  • データ汚染攻撃によるAIの性能劣化や誤分類のリスク
  • AIの利用拡大にともなう計算リソースの拡大によるエネルギー使用量と環境負荷

フィルターバブルとは、AIがユーザーの好みにあわせた情報ばかりを表示することで、偏った情報環境に閉じ込められる現象です。 エコーチェンバーとは、同じ意見を持つ人同士が互いの考えを強め合い、異なる視点に触れにくくなる状態を指します。

これらの従来型リスクは、AI技術の根本的な仕組みに由来するものです。 生成AIの導入を検討する際にも、こうした基本的なリスクをあらためて認識しておくことが大切です。

生成AIによって新たに顕在化したリスク

従来のAIリスクにくわえて、生成AIの登場によってこれまでにない新しいタイプのリスクが顕在化しました。 AI事業者ガイドラインでは、これらを特に注視すべきリスクとして明示しています。

新たに顕在化したリスク 内容
ハルシネーション 事実に基づかない誤った情報をもっともらしく生成する
個人情報・機密情報の流出 プロンプトへの入力を通じて情報が外部に漏洩する
ディープフェイクの悪用 偽画像・偽動画による情報操作や世論工作がおこなわれる
バイアスの再生成と拡大 既存の偏見を増幅し、不公平な出力が継続・拡大する

とくにハルシネーションについては、技術的な対策が検討されているものの完全には抑制できないとガイドラインでも明記されています。 ユーザーは生成AIの出力を鵜呑みにせず、検索などを併用して正しさを確認することが望ましいとされています。

また、ディープフェイクについては、偽の画像や動画を鵜呑みにすることで情報操作や世論工作に利用されるリスクが指摘されています。 既存の情報に含まれる偏見をAIが増幅し、差別的な出力が広がり続けるというバイアスの再生成リスクも重要な論点です。

企業はこれらの新しいリスクを正確に理解し、組織的な対策を講じていく必要があります。

AI事業者ガイドラインの概要と要点

AI事業者ガイドラインは、AIのリスクを示すだけでなく、リスクと便益のバランスを重視した前向きな姿勢も打ち出しています。

ガイドラインでは「リスクの存在を理由として直ちにAIの開発・提供・利用を妨げるものではない」と明記しています。 そのうえで、リスクを認識しつつも積極的にAIを活用し、競争力の強化や価値の創出、イノベーションにつなげることが期待されるとしています。

ガイドラインの主要なポイントは以下のとおりです。

  • AI開発者、AI提供者、AI利用者それぞれの役割と責任を明確化している
  • リスクの許容性と便益のバランスを検討したうえで活用を推進する方針を示している
  • 人間中心の原則にもとづき、人間がAIを監督・制御する体制を求めている
  • 透明性の確保として、AIの利用状況やリスク対応について適切に情報公開することを推奨している
  • 安全性の確保として、AIのリスクアセスメントと継続的な見直しを求めている

このガイドラインの存在を知らない企業はまだ少なくありません。 しかし、国が示す指針に沿った対策を講じておくことは、万が一のトラブル発生時にも企業の信頼を守ることにつながります。

生成AIの導入を検討している企業は、まずこのガイドラインに目を通し、自社の取り組みの土台とすることをおすすめします。

企業が実践すべき6つのリスク対策

生成AIの問題点を把握したうえで重要なのは、具体的な対策を講じて実行に移すことです。 ここでは、企業が今すぐ取り組むべき6つのリスク対策を紹介します。

対策 目的
社内利用ガイドラインの策定と周知 ルールの明確化で人的リスクを低減する
セキュアな環境での生成AI導入 技術的に情報漏洩を防止する
ファクトチェック体制の構築 ハルシネーションによる誤情報を防ぐ
プロンプトエンジニアリングの標準化 出力品質を安定させる
シャドーAIの防止策 非管理利用によるリスクを排除する
法務・セキュリティ専門家との連携 法的リスクと技術的リスクに備える

それぞれの対策を具体的に解説します。

社内利用ガイドラインの策定と周知

生成AIのリスク対策として最初に取り組むべきなのが、社内利用ガイドラインの策定です。 どんなに優れたセキュリティツールを導入しても、社員がルールを知らなければリスクは防げません。

ガイドラインに盛り込むべき主要な項目は以下のとおりです。

  • 生成AIに入力してよい情報とNGな情報の明確な線引き
  • 利用を許可するAIツールとサービスの一覧
  • 生成AIの出力をそのまま外部に公開する前の確認プロセス
  • 問題が発生した場合の報告ルートと対応手順
  • ガイドラインに違反した場合の対応方針

ガイドラインは策定するだけでは不十分です。 全社員への周知と定期的な研修をセットでおこなうことで、はじめて実効性のあるルールとなります。

とくに新しいAIサービスが次々と登場する現状では、ガイドラインの内容も定期的に見直す必要があります。 最低でも半年に1回はアップデートをおこない、最新の状況に対応させることをおすすめします。

セキュアな環境での生成AI導入(Azure OpenAI等)

情報漏洩リスクを技術的に低減するためには、セキュアな環境で生成AIを利用することが効果的です。

一般的な無料版のChatGPTなどでは、入力データが学習に使われる可能性があります。 これに対して、法人向けのセキュアなサービスを選択することで、データの取り扱いをより厳密に管理できます。

サービスの種類 特徴
一般向け無料版(ChatGPT等) 入力データが学習に利用される可能性がある
法人向け有料版(ChatGPT Enterprise等) データが学習に使われない設定が標準で適用される
Azure OpenAI Service Microsoft Azureの閉域ネットワーク内でAIを利用できる
オンプレミス型AI 自社サーバー内でAIを運用し、外部にデータが出ない

なかでもAzure OpenAI Serviceは、入力データがモデルの再学習に一切使用されないことが明確に保証されています。 企業ネットワーク内でAIを安全に利用できるため、機密情報を扱う業務にも適用しやすい選択肢です。

自社に最適な導入環境の選定に迷う場合は、AIの活用支援に実績のある外部パートナーに相談するのもひとつの方法です。 株式会社エッコでは、企業のデジタル活用全般に関するコンサルティングを提供していますので、お気軽にご相談ください。

生成物のファクトチェック体制の構築

ハルシネーションによる誤情報の発信を防ぐためには、生成AIの出力を検証するファクトチェック体制を社内に構築する必要があります。

生成AIの出力は一見もっともらしく見えるため、誤りを見つけ出すのは簡単ではありません。 だからこそ、「AIの出力をそのまま信じない」という前提のもとで、組織的なチェック体制を整えることが重要です。

ファクトチェック体制を構築する際のポイントは以下のとおりです。

  • AIの出力は「下書き」として扱い、必ず人間がレビューしてから公開する
  • 数値データや固有名詞は、一次情報源(公式サイトや公的機関の発表)と照合する
  • 専門分野の内容については、該当分野の知識を持つ社員がダブルチェックする
  • チェック済みのコンテンツには承認フローを設け、責任者の確認を経てから公開する
  • チェックリストを作成し、確認すべき項目を標準化する

ファクトチェックは手間がかかりますが、誤情報の発信による信用失墜のコストはそれ以上に大きいものです。 「最終確認は人間がおこなう」というルールを社内に根づかせることが、生成AI活用の大前提となります。

プロンプトエンジニアリングの標準化

生成AIの出力品質は、プロンプト(指示文)の書き方によって大きく左右されます。 社内でプロンプトの書き方を標準化することは、出力の品質安定とリスク低減の両面で効果的です。

曖昧な指示を与えると、AIは解釈の幅が広がるため、意図しない回答を返しやすくなります。 逆に、具体的で明確な条件を指定すれば、より正確で一貫性のある出力を得ることができます。

プロンプトの工夫 期待できる効果
役割や立場を指定する(例:あなたは法律の専門家です) 専門的で正確な回答を得やすくなる
出力形式を明示する(例:箇条書きで5つ挙げてください) 回答のばらつきが減り、品質が安定する
参考にすべき情報源を指定する ハルシネーションのリスクを低減できる
回答に含めてはいけない内容を指定する 不適切な情報の出力を防止できる
出力後に自己チェックを求める AIが自ら誤りに気づく可能性が高まる

企業としては、業務ごとのプロンプトテンプレートを作成し、社内で共有することが効果的です。 たとえば、議事録の要約用、メール文面の作成用、データ分析の依頼用など、用途別にテンプレートを用意しておくと、誰でも一定品質の出力を得られるようになります。

プロンプトエンジニアリングの知見を社内に蓄積していくことで、生成AIの活用レベルは着実に向上します。

シャドーAI(非管理利用)の防止策

企業が管理していない環境で社員が勝手に生成AIを使う、いわゆるシャドーAIは、見えにくいがゆえに危険なリスクです。

シャドーAIとは、IT部門や情報セキュリティ部門の管理外で、社員が個人のアカウントやデバイスを使って生成AIを業務に利用することを指します。 会社が認識していない利用であるため、どんなデータが入力されたかを把握することができません。

シャドーAIを防止するための具体策は以下のとおりです。

  • 業務で利用可能なAIツールを会社として公式に指定し、それ以外の利用を禁止する
  • 社内ネットワークから未許可のAIサービスへのアクセスを技術的にブロックする
  • 利用ログを取得し、誰がいつどのAIサービスを使ったかを可視化する
  • なぜシャドーAIが危険なのかを社員に具体的に説明し、理解を促す
  • 社員が使いたくなるような公式のAI環境を整備し、非公式利用の動機を減らす

シャドーAIの根本的な原因は、公式なAI環境が整っていないことにある場合が多いです。 「使うな」と禁止するだけではなく、安全に使える環境を会社が提供することが最も効果的な対策といえます。

法務・セキュリティの専門家との連携

生成AIに関するリスクは、著作権、個人情報保護、セキュリティなど多岐にわたるため、社内だけですべてを対処するのは困難です。 法務やセキュリティの専門家と連携する体制を構築することが、リスク管理の質を大きく高めます。

  • 著作権や知的財産に関する判断は、弁護士や法務の専門家に確認する
  • 情報セキュリティ対策については、セキュリティベンダーやコンサルタントの助言を得る
  • AIの利用規約やデータ取り扱いポリシーの確認を法務部門と連携しておこなう
  • 最新の法規制やガイドラインの動向を定期的にウォッチし、対応方針をアップデートする

生成AIをめぐる法制度は世界的にもまだ整備途上であり、状況は日々変化しています。 EU AI法の施行やG7広島AIプロセスの進展など、国際的な動きにも注意を払う必要があります。

定期的に専門家のレビューを受けることで、想定外のリスクにも早期に対応できるようになります。 Webマーケティングの観点からの生成AI活用については、デジタル領域に強い株式会社エッコのようなパートナーと連携することも選択肢のひとつです。

問題点を踏まえた上での生成AI活用の考え方

ここまで生成AIの問題点と対策を見てきましたが、リスクがあるからといって活用を避けるのは得策ではありません。 総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインでも、リスクを理由にAIの利用を妨げるべきではないと明言しています。

大切なのは、リスクを正しく理解したうえで、安全に活用を進めていく姿勢です。 ここでは、その具体的な考え方を2つの視点から解説します。

視点 内容
リスクと便益のバランス 用途ごとにリスクと効果を評価して判断する
段階的導入アプローチ 小さく始めて徐々に適用範囲を広げる

リスクと便益のバランスを見極めるフレームワーク

生成AIの導入を判断する際には、リスクと便益を用途ごとに個別評価するフレームワークが有効です。 すべての業務に同じ基準を当てはめるのではなく、用途に応じてリスクの大きさと得られる効果を天秤にかけて判断します。

評価の際に考慮すべきポイントは以下のとおりです。

  • その業務でAIが誤った出力をした場合、どの程度の影響があるか
  • 機密情報や個人情報がAIへの入力に含まれるかどうか
  • AI導入によってどの程度の業務効率化やコスト削減が見込めるか
  • 人間によるチェック体制を組み込むことが現実的に可能かどうか
  • 代替手段と比較して、AIを使うことの優位性がどの程度あるか

たとえば、社内向けの議事録要約やアイデア出しの補助として使う場合は、リスクが比較的低く便益が大きいため、積極的に活用して問題ないでしょう。 一方、顧客への公式な回答文書の作成や法的判断に関わる業務では、リスクが高いため慎重な運用が求められます。

こうした用途別のリスク評価表を作成し、全社で共有することが、バランスの取れた活用につながります。

段階的導入で安全に活用を広げるアプローチ

生成AIの導入は、一気に全社展開するのではなく、段階的に進めていく方法がリスクを抑えるうえで効果的です。

いきなり大規模に導入すると、予期せぬトラブルが発生した際の影響範囲が広がってしまいます。 小さな範囲で試験的に始め、効果とリスクを検証しながら徐々に拡大していくアプローチが推奨されます。

  • ステップ1:情報収集と方針策定 — 自社に適した活用領域を選定し、ガイドラインを策定する
  • ステップ2:限定的なPoC(概念実証) — 特定の部署や業務で試験的に導入し、効果とリスクを検証する
  • ステップ3:パイロット運用 — PoCの結果を踏まえて運用ルールを整備し、対象範囲を拡大する
  • ステップ4:本格導入 — 全社的な導入を進め、継続的なモニタリングと改善をおこなう
  • ステップ5:高度活用 — 自社データとの連携やカスタマイズにより、さらなる価値創出をめざす

各ステップにおいて効果測定と振り返りをおこない、問題があれば前のステップに戻って修正することが大切です。

段階的に進めることで、社内にノウハウが蓄積され、社員のAIリテラシーも自然と向上していきます。 焦らず着実に進めることが、結果的には最も早く安全にAI活用のメリットを享受する道につながるのです。

まとめ

この記事では、生成AIの問題点7選として、ハルシネーション、情報漏洩、著作権侵害、ディープフェイク、バイアス、思考力低下、環境負荷について解説しました。 あわせて、実際に発生したトラブル事例と、政府が示すリスク分類、そして企業が取り組むべき6つの対策も紹介しています。

生成AIは強力なツールですが、その活用には正しいリスク理解と適切な対策が不可欠です。 ガイドラインの策定、セキュアな導入環境の選定、ファクトチェック体制の構築、プロンプトの標準化など、やるべきことは多岐にわたります。

しかし、これらの対策をしっかりと講じたうえで活用すれば、生成AIは業務効率化や競争力強化に大きく貢献してくれるはずです。 リスクを恐れて使わないのではなく、リスクを管理しながら賢く活用するという姿勢が、これからの企業には求められています。

生成AIの導入や活用方法にお悩みの場合は、デジタルマーケティングの知見を持つ専門家に相談することも有効です。 名古屋のWebコンサルティング会社である株式会社エッコでは、企業のデジタル活用を総合的にサポートしています。 生成AIを含むWeb戦略の最適化について、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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